極めて個人的な映画関連メモ②
まえがき・感想を書くということ
映画の感想ってどのタイミングで書けばいいのか困る。そりゃ見た直後が内容も細部も覚えてるから精度の高い感想が書けるだろう。精度の高い感想ってなんだ。でもまあ「思い出補正」なんて言葉が示す通り視聴してから時間が経つとノイズが入り込んでやっぱり正確な評価はできないらしい。
③ベルナルド・ベルトルッチ『暗殺の森』(1970)
④ベルナルド・ベルトルッチ『ラストエンペラー』
アカデミー作品賞も取ってたし舞台が東アジアということで日本での知名度はかなり高いと思う。なので筆者が今更感想を書く必要もないように思えるけど既に述べている通りこのブログは極めて私的なのでそこらへんは気にしない。気にしたいのはぶっ続けで映画の感想を書くのは疲れるので筆者がこのままちゃんとした感想が書けるかどうかだ。ちゃんとした感想の存在可能性の是非については語らない。
知っての通り「ラストエンペラー」とは清朝最後の皇帝である愛新覚羅溥儀のことでこの作品は溥儀の生涯を映した歴史映画であるが、「どうせみんな展開は知ってるでしょ」ということなのか最初から戦後中国、つまり中華人民共和国が映し出される。戦犯逮捕スタート。ストーリーは中国での戦犯溥儀に対する尋問・強制収容所生活と清朝・満州国時代を行き来しながら展開されていく。
それを聞くとめっちゃ面白そうやんけと思うだろう。けれど、それに続く清朝時代の映像を見たときは「失敗したな」と思ってしまった。まず登場人物が一部を除いてほとんど英語で演技し始めたので「英語帝国主義許せねえ……英語帝国主義許せねえよ!」となってしまった(既に序盤で英語は使っているのだが)。まあだいたいこういうのは後々気にならなくなるのだが、つまらないことに腹を立てるオタク特有のめんどくささを発揮し掴みは著しく低かった。また、溥儀を清朝皇帝に指名する西太后も序盤で出てくるのだがそのオリエンタリズム丸出しの演出にまたしても筆者は「欧米中心主義許せねえ……欧米中心主義許せねえよ!」と無駄にアジア的憤りを感じてしまった。無駄に変な学部で無駄に変なことを学んでしまったので無駄に腹を立てることとなってしまった。こういうことは社会に出ても一切役に立たないのでさっさと忘れたい。
そんなわけで掴みは最悪だった。皇帝の即位式において数千のエキストラが溥儀の目の前で三跪九叩頭の礼をするシーンは圧巻だったりするのだが、英語の飛び交う紫禁城の中で「アジア的」演出が映し出される。なんやねんベルトルッチ。付け加えると筆者はフィクション中に出てくる「子供」という存在が死ぬほど嫌いなので天真爛漫というか厚顔無恥に振る舞う幼少期の溥儀にも半ばキレていた。もう見るのやめろよ。
状況が変わるのは溥儀が思春期くらいに入ったところ、辛亥革命の勃発から。筆者が国家の滅亡やら革命やらといった要素が好きなのもあるが、こういう衰退を見るのは本当に楽しい。辛亥革命で紫禁城に閉じ込められ、北京政変では逆に追い出され溥儀は妻の婉容・文繍とともに天津に逃げる。
どうでもいいのだが思春期の頃から溥儀に仕えていた家庭教師ジョンストンさんがいい人すぎる。欧米人はやはり知性と人間性を兼ね備えているのか、それに比べてアジアのイエローモンキーどもは……とまた無駄なことを考え始めてしまう。どうでもいい。
こっからはもう凋落アンド凋落の連続である。ジョンストン先生は「イギリス政府が助けてくれる」言ってたのに手を伸ばしてくれたのは結局日本だけだし下心丸見えだし、側室の文繍にも逃げられるし、溥儀に構ってもらえない婉容はメンヘラをこじらせるし。そうして満州国建国へと進んでいくのだが、ここらへんになるともうすべてが空疎である。皇帝即位の儀式もおままごと、婉容はアヘン中毒、皇帝の権威も見かけ上だけで実権はすべて日本のもの、最高かよ。
あとはお察しのように世界大戦が終結し日本は敗戦、溥儀も逮捕され最初のシーンへと繋がる。王様気分の抜けない溥儀が収容所内で根性叩き込まれるシーンは性格が悪いようだがすかっとする。その後、収容所内での「教育」を終えた溥儀は北京で一般の植物園職員となるのだが、この後のラストシーンがこの映画屈指の名シーンとなっている。半世紀ちょっとでここまで時代が変化するものなのか、20世紀が最高だった理由の一つを垣間見ることができる。
映像面から見ると主演のジョン・ローンの演技が非常に良い。溌剌とした青年期からどんどん生気が失われていくも、戦後になるとどこか解放されて悟ったような表情をする溥儀、そうした変化を巧く表現していると思う。そういえば音楽は坂本龍一だが、少しベタつく。久石譲もそうだが、この二人の映画音楽はなんだか映像より前面に出ようとしている気がする。音楽自体はいいけど。
実験的にあらすじと一緒に感想を書いてみようと思ったが、やけに長くなる。映画も長い。劇場公開版だと3時間弱、オリジナル版だと200分を超えるとかなんとか。個人的に映画は120分を超えると一気に面白さのハードルが上がるのだが、これはそのハードルを越えていたと思う。でも長い。疲れる。なのでもう二度と見ないだろう。けどあのラストシーンをもう一度見たいという欲も湧き上がる、そのためには再び160分見ないといけないのだが。
おわり
感想を書くのがどうだこうだ言っていたが今ここで思うことはやっぱり多分に労力が要るということ。もう少し楽に書けて面白いトピックはないのか。適当に考えていたのは映画版『バーナード嬢、曰く』みたく「見ているとかっこいい映画・通ぶれる映画」とか紹介できたらと思うのだがああいうのは書いている人が通だからできるわけでこの企画もなかば諦めている。