Besteh! Besteh!

印象論で何かが語られる。オタク、創作、時々、イスラエル。

室賀厚作品レビュー企画(第1回):『ブローバック』シリーズ

はじめに

 映画レビューを始めるためにスタートしたような気がするこのブログも、筆者がKINENOTEに移行してしまったがためにすっかりスカスカになってしまった。

 別にこのブログがどうなろうが関係ないが、立ち上げたものは立ち上げたものなりに有効活用したいなと思う今日のころごろ、いつも通り見た映画(厳密に言うとオリジナルビデオ)のレビューをKINENOTEに書こうとしたら作品登録がなかった。なのでこっちにレビューを掲載することにした。掲載することにして、兼ねてから今回見た作品の監督である室賀厚氏の作品を体系的にレビューしたいなと常々考えていたので、シリーズ化することにした。基本的にはKINENOTEに投稿するものと同じだが、KINENOTEだと体系的に映画監督の作品群についてレビューすることが難しいので、このブログを活用する。こうしてこのブログは機能する。機能、機能ってなんだ。

 また、機会あれば同人誌なりそういうハードの形でレビュー本も作れたらなとも思う。なかなかそういうのは難しいが、言っておかないと忘れるので今ここで宣言しておく。

 

室賀厚監督について

 一旦ここで室賀厚監督について紹介だけしておきたい。

 室賀厚氏は1964年大阪生まれ。明治大学の映画サークルで大川俊道に出会い、師事。卒業後はジャパンホームビデオ株式会社に入社し、会社での映像制作に加えて自主製作映画やアニメ脚本の分野で活動していた。1987年に集英社主催のビジネスジャンプ映像大賞で自主制作作品『HELP ME!』がグランプリ受賞。これが契機となってジャパンホームビデオで『ブローバック 真夜中のギャングたち』(1990年)を監督しオリジナルビデオ作品としてデビュー。1995年には当時の松竹で活躍していた奥山和由とともに『SCORE』(1995年)で劇映画デビュー、同作は第50回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第17回ヨコハマ映画祭の新人監督賞および審査員特別賞を受賞した。以降もオリジナルビデオ作品や劇場公開作品をコンスタントに制作し続けている。

 

 ここから個人的な室賀作品群全体に対する印象。

 90年代の東映Vシネを先駆とするオリジナルビデオ流行時代に、香港ノワールに影響を受けたバイオレンス・アクション作品を得意とした監督…………そう言うとなんか格好よく聞こえるが、悪く言ってしまうと低予算のB級アクション映画ばかり作っていた監督だ。香港ノワールの影響、というよりもオマージュ(完全に意識的に演出しているのでパクリというのは憚られる)が非常に多く、ジョン・ウー男たちの挽歌』シリーズ、クエンティン・タランティーノレザボア・ドッグス』、リュック・ベッソンニキータ』などの名作バイオレンス映画、ほかジョン・フォードの西部劇などからの引用が多々見られる。

 作品として文芸性であるとか社会性であるとかはほとんどなく、基本的にエンターテイメントとしての映画に振り切っている。そのためバイオレンス映画だけではなく漫画作品の実写化やホラー・ゾンビ映画、ヒューマンドラマに起用されることも少なくない。

 また、B級映画の宿命であるが室賀作品の多くは低予算の雰囲気に満ちている。しかし、逆に言うと数多の低予算作品とその監督たちが出現した90年代オリジナルビデオから現在まで現役監督を続けられている、起用されているという点で映画の経済性についてある種のセンスを持っている監督なのかもと勝手に推測している。

 

 何か鋭い切れ味である大傑作であるとか、質量のある超大作を作る監督ではない。映画に関する受賞も『SCORE』を除いてほとんどない。マジでなんでこの監督の作品に惹かれるかわからないが、今書いたようにこのブログの筆者はマジで室賀厚作品が好きだったりする。今一度、室賀厚作品の魅力を解体していきたい。

 

企画についての備忘録と注意事項

本企画を執筆していくにあたって、いくつかメモを残す。

・レビュー対象作品は「監督:室賀厚」とクレジットされている作品に限定する。それ以外の形で制作に関与している作品は、レビュー中で言及する場合はあるが作品単体としてはレビューしない。

・基本的に未視聴の読者を想定しているが、ネタバレや物語の核心に触れる記述を避けることはしない。室賀作品を紹介する目的もあるが、作品群の体系的なレビューを主たる目的とするため、必要な場合はストーリーを詳述することがある。

・主にネットで情報収集しているため、情報の確実性は担保できない。可能な限り正確な情報の記載に努めるが、噂や推測の域を出ないものもある。その場合はそのことを明記する。

 

『ブローバック 真夜中のギャングたち』

f:id:J_Makino:20201113004722p:plain

『ブローバック 真夜中のギャングたち』1990年


公開:一九九〇年

制作:ジャパンホームビデオ

製作:升水惟雄

脚本:石山真弓、伊藤理生

出演:竹内力柳沢慎吾、相田寿美緒、竹中直人、ほか

 

あらすじ:

 強盗を生業とするジョー(竹内力)とパク(柳沢慎吾)は、違法カジノの売上に目を付け、ある夜強盗を実行する。強盗は成功し二人は大金を手にするが、ジョーは強奪した金品の中に謎のフィルムが混在していること発見する。そのフィルムはカジノを運営する裏組織が進める巨大な偽札ビジネスの重要資料だった。ジョーとパクは二人の恋人であるレイ(相田寿美緒)を連れて街を脱出しようとするが……。

 

レビュー:

 室賀厚の監督デビュー作。デビュー作からジョン・ウーのパクリをしちゃいかんのよ。

六十分程度の作品だが、最後二十分がほぼすべて銃撃戦のためこれがやりたかったんだろうなというのがひしひしと伝わる。最初に述べておくと、この「撮りたい」という意志を画面から感じられるのが室賀作品の醍醐味だろう。

 日本語と英語が不自然に飛び交う国籍不明の街であるとか、廃工場での熾烈な銃撃戦とか、上述したジョン・ウーをはじめとするアクション映画へのオマージュの多用、気取ったセリフ回しなど、のちの多くの室賀作品に共通する世界観やスタイルが既にちらちらと見られる。

 ストーリーはあってないようなもので、役者の演技も忍耐を強いられるレベルだが、徐々に慣れるので問題ではない。アテレコの巧拙だとか、英語の発音を気にするヤツは室賀作品見ないだろ。柳沢慎吾柳沢慎吾だし、当時二十六歳の竹内力も既にオーラがある。ヒロイン役の相田寿美緒は、八十年代から九十年代初頭に掛けて活動していたモデル・女優で、カネボウのCMのほか映画やドラマにも出演していた。九三年にプロ野球選手の荒木大輔と結婚して引退している。他にも脇役で竹中直人が出演しているが、一人だけ演技力が違うために逆に違和感がある。

 前述した通り作品の三割が銃撃戦に費やされる。ギャングにしては過剰すぎるほどの重火器たちが一斉に吠える! 全然当たらない! 当たっても何発食らおうが死なない男たち! どういう感情で見ればいいのかよくわからない!

 それは置いておいて、ガンエフェクトや流血の表現は『クライム・ハンター』シリーズから始まるリアル路線を踏襲している。銃弾の貫通であるとか排莢のシーンをこれでもかと映す。あれ撮るの面白いんだろうな。『クライム・ハンター』(一九八九年)は室賀の師にあたる大川俊道柏原寛司が監督と脚本を担っており、三人は後に映画制作会社KOMを設立することになる。ここらへん九十年代におけるオリジナルビデオ/ガンアクション・エフェクトの歴史を感じられて良い(竹内力も『クライム・ハンター』出てたしね)。でも最後にバズーカ持ち出すのはどうやってもコントだろ。

 作品として何か光るものがあるわけではないのだが、今でも活躍する俳優たちの若かりし頃であるとか、九十年代ガンアクションの歴史、室賀作品の原型など(オタク的な視点ではあるのだが)を覗ける点で、見てみることに少しばかりは意義があるかもしれない。俺は好きです。

 

『ブローバック2 夕陽のギャングたち』

 

f:id:J_Makino:20201113223218p:plain

『ブローバック2 夕陽のギャングたち』(1991年)

公開:一九九一年、(オリジナルビデオ)

制作:ジャパンホームビデオ、松下プロ

製作:升水惟雄、松下順一

脚本:大川俊道

出演:竹内力、吉田美江、菅田俊、ハント敬士、

マイク・モンティ、松山鷹志、ほか

 

あらすじ:

 前作で五十万ドルを強奪してギャングの追跡を振り切ったジョー(竹内力)とパク(松山鷹志)はフィリピンにいた。マニラを目指して悪路を車で進む中、突然武装したゲリラに襲撃され、パクは射殺、ジョーも重傷を負わされる。ジョーはマニラでパクの過去の恋人がいるという店に逃げ込むが、既に店は変わってレイ名乗る女性(吉田美江)とが経営していた。ジョーはレイに一命を助けられると、武装ゲリラへの復讐のために、レイを半ば無理矢理連れて追跡を開始する。途中警察によって窮地に陥っていたところ、元犯罪捜査官で現在は賞金稼ぎを稼業とするラッツ(菅田俊)に助けられ、同じく武装ゲリラを追う目的を共有することからジョーは協力を持ち掛けられる。

 

レビュー:

 何故か潤沢な予算を手に入れた室賀監督が撮影したのはシリーズ作でありながらキャストも世界観もすべて破壊する一大スペクタクル戦争映画だった。この頃のオリジナルビデオって結構予算あるよね。

 前作で五十万ドルを奪ったところは繋げているが、主人公の相棒パクは前作の柳沢慎吾から松山鷹志に変更した上で開幕に射殺し、前作ヒロインは完全に主人公の記憶から消し去られ、その名前だけを引き継いだ新ヒロインがそのポジションを上書きしてしまったようだ。こういう無茶苦茶な設定の上書き、香港映画っぽい。

 しかし作品のクオリティは底上げされており、前作ではあるんだかないんだかわからなかったストーリーも、脚本家に室賀の先輩であり師である大川俊道を迎え入れたことでコンパクトながら起伏のある物語にまとまっている。俳優たちの演技の面でも前作ではあまり見どころのなかった菅田俊をメインに持って来て渋い男を演じさせ、交代したヒロインの吉田美江は前作の相田寿美緒と同じくモデル出身ながらしっかりとキャラのある演技を見せてくれる(なんかハードルが下がっている気はするが)。

 ただそれ以上に、室賀監督が撮りたかったのは「戦争映画」というジャンルだろう。前作ではジョン・ウーのような香港ノワールを目指していたのが、本作では『地獄の黙示録』のようなベトナム戦争映画を目指しているようだ。東南アジアの奥地で白人の軍人が武装したコミュニティ作ってたらそれは『闇の奥』なんだよ。

しかも、『地獄の黙示録』と同じく本作はフィリピンで撮影されている。フィリピンは後の室賀作品でも結構な頻度で出てくるほど、室賀監督のお気に入りのロケ地のようだ。海外ロケと聞くと多額の資金が必要のように思えるが、日本で人件費の掛かるキャストやスタッフを用意するよりも、現地でスタッフやエキストラを日雇いのように用意する方がコストを低く抑えることができる。戦争アクションのような大規模で危険な撮影をする場合にも日本よりフィリピンの方が、その自由度が高いというメリットがある。また、室賀作品に見られる無国籍な世界観も、アメリカとアジア双方の色彩を併せ持つフィリピンという空間がマッチしている。

こうしたフィリピンロケのメリットは後に『SCORE』や『GUN CRAZY』にも生かされることになるがそれはまた別のお話。

 そんなこんなで、本作は「戦争映画」を目指しているわけだが、「戦争映画」とは火力のために撮られる劇でもある。少なくともこのフィリピンではそうなのだ。

大量のフィリピン人エキストラが三十万発ライフルを撃ち(どうやって数えたんだ? しかも一切当たらん)、ダイナマイトが爆発し、ヘリが飛んでバズーカを撃つ!(機内でバズーカを撃つな!)挙句の果てにミニガンを抱えた竹内力武装ゲリラを一掃する。なんだこれは。

 劇としてまとまりがよくなったのかと思ったら帳尻を合わせるように火薬とアクションが出鱈目なインフレを見せて、やりたいことやっているようで、俺は好きです。

 

おわりに

 いかがでしたかもクソもねえが、ちゃんと〆よう。

 『ブローバック』シリーズは1においてジョン・ウーへのリスペクト、2ではフィリピンロケと、のちの室賀作品群に繋がる作品の色彩や方法論が既に確立?されていることが伺える(もちろんフィリピンロケがマカロニウエスタンみたいに当時のオリジナルビデオ業界では一般的なものだったのかもしれないが)。

 また、東映Vシネの登場とともに盛り上がりを見せ始めたオリジナルビデオ時代の雰囲気や、今も広く人気を誇る竹内力竹中直人柳沢慎吾など多くの俳優・タレントの若かりし頃を見られるのも、ノスタルジックな見方ではあるのだが一つ面白いところだろう。

 個人的な反省。大川俊道柏原寛司との繋がりが深いってことは『太陽にほえろ!』とか『西部警察』、『あぶない刑事』なんかのテレビドラマの影響も大きそうなんだよな。履修しておく必要があるかもしれない。あとあんまりジョン・フォードとかの西部劇も観ていないのでカバーしておきたい。

 最後に、『ブローバック』シリーズの視聴方法についてだが、手っ取り早いのはGYAO!でレンタルすることだろう。値段も110円とやたらと安い。DVDは廃盤で、ネット上ではわずかにVHSの流通を見つけることができたのみである。もし中古DVD見つけたら連絡ください。よろしくお願いします。