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室賀厚作品レビュー企画(第3回):『SCORE』

バックナンバーは一番下です。参照するのか?

 

はじめに

前回更新から2日だぞ。大丈夫かこのペース。

今回紹介するのは1996年公開の『SCORE』です。松竹系で室賀監督の劇映画デビュー作。『レザボア・ドッグス』が『男たちの挽歌』です。またかよ。でも俺は室賀監督作品群最高傑作だと思ってるよ。

『SCORE』

 

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『SCORE』(1996年)

公開:一九九六年(一部では九五年公開とされるが先行公開と推測。全国公開は九六年一月なのでこれを正とした)

制作:松竹第一興行、バンダイビジュアル

製作:奥山和由

脚本:室賀厚・大川俊道

出演:小沢仁志、江原修、小沢和義宇梶剛士、高野みゆき、水上竜士、宮坂ひろし、他

 

あらすじ:

 舞台は現代、東南アジアのどこかの国。

 懲役刑を受けていた銀行強盗のプロ・チャンス(小沢仁志)は犯罪組織のボス・大佐(宇梶剛士)の裏工作により釈放される。大佐に借金を抱えるチャンスに再び強盗をさせるのが大佐の目的だった。新たに仲間三人も加えて、チャンスは宝石強盗を計画、実行しこれを成功させる。

 後は郊外の廃工場で大佐から金を受け取るだけだったが、その途中にイカれたヒッチハイク強盗のTJ(小沢和義)に目をつけられて宝石を奪われてしまう。更に仲間内でも宝石の独り占めを狙って裏切りが起き、廃工場は欲望渦巻く熾烈な銃撃戦に飲み込まれることになる。

 

レビュー:

 前回『ザ・ワイルド・ビート』のレビューで紹介した通り、前作を小沢仁志に紹介された奥山和由がそのアクション演出を気に入って実現した企画。本作が室賀厚にとって劇映画デビューとなる。

 作品の筋も前作から変わらず、『レザボア・ドッグス』なビジュアルと男たちの裏切りをファクターに『男たちの挽歌』みたいな銃撃戦とドラマを組み合わせたアクション映画となっている。

 見ていると感じることだが、時間の経過が非常に速い。セリフでストーリーを進めることがほとんどなく、基本的にアクションだけで画面を転がしていくので画面のテンポが異常に良い。

 逆にセリフはほとんどキャクターを紹介するため、あるいは場の演出に使われている。キザったらしい、あるいはアニメチックなキャラクターたちがキザったらしい言葉を吐き続けるので「そんなヤツおらんやん!」「アニメじゃん!」など叫び続けることになるが、そういう尖ったところが気にってるから見てんだよこっちは。なお劇場公開後に月刊シナリオ(一九九六年二月号)で室賀厚と大川俊道の対談インタビュー記事が掲載されているが、両名とも脚本についてはストーリーよりもアクションに重きを置いた、アクションを見せるための映画と割り切っているようだ。また、当初は大川が全面的に室賀の脚本のリライトを行ってから撮影を始めたが現場で室賀がアクションのためにバンバン脚本を変更したとのこと。そんな話を月刊シナリオでするな。

 正直、そうしたアクション重視の面があるためどうしてもアクションの比率が低い前半部は結構退屈な印象を受ける。特に外から乱入してきて物語をひっちゃかめっちゃかに掻き回すヒッチハイク強盗のカップルはそのどぎついキャラクターも相まってなかなか応える。勝手な推測としてカップルの女・沙羅のキャラクターは奥山和由の提案っぽい。それまでの室賀作品には見られないキャラクターだが、奥山製作の『いつかギラギラする日』(一九九二年、深作欣二監督)で荻野目慶子が演じるイカれた女に似ててなんか邪推しちゃうんだよな。それと、沙羅を演じた高野みゆきについては何も情報がない。本作と同時期に公開されたジュブナイルホラー『地獄堂霊界通信』(一九九六年、監督:那須博之)にわずかに出演しているらしいが、それ以上のことはとりあえずネットではほとんどわからなかった。

 後半のアクションシーンはしかし溜めていただけあって見ものだ。明らかに不要なほどでかいショットガンを振り回す宮坂ひろしや、恐らくフィリピン現地で採用したであろう謎の殺し屋三人組、それに対抗する主人公たちはバチバチチョウ・ユンファを憑依させて二丁拳銃やら台車突撃射撃(?)で敵を蹴散らしていく。そしてどこかで聞いたことのあるようなキザなセリフ、最高! 個人的に気に入っているのは小沢が「チャンス」の名の由来を回収した後の宮坂とやる殴り合いのような銃撃戦です。

(どうでもいいが劇中銃弾何発もぶち込まれてシャツが赤くなっても小沢や江原が生き生きしているのはやっぱりこの映画のダメージシステムがFPSみたいに時間経過回復方式を採っているからだろう)

 ラストには思い出したように『レザボア・ドッグス』要素が復活する。いきなりここでドラマになる⁉ と思いながらも、こういう終わり方でいいのよとも思う。そっからシームレスに突入するかっけえロックとエンディング。こういうのでいいのよ。あるとき、本作が初見だという人々に見せたら「まさか最後〇〇じゃないよね?」と見事に最後の演出を言い当てられて感動したことを覚えている。

 再び月刊シナリオのインタビュー記事に戻るが、アクション優先という脚本も、突き詰めて言うと室賀のやりたいことを優先させた映画でもあるという。室賀の先輩でありドラマ脚本の経験も厚い大川も「お行儀のよい」脚本を用意することはできたかもしれないが、そうではなく室賀の尖りまくったアクション演出に対する感性を絞り切った結果生まれたのが本作だろう。

 更にそこに北野武ソナチネ』、石井隆『GONIN』など切れ味のある九〇年代バイオレンス映画に深く関わってきた奥山が関与することで作家性とエンタメ性の両立にまとまりができたのかもしれない。ある意味、九〇年代のオリジナルビデオにおけるバイオレンスを駆けてきた室賀厚と大川俊道と、劇映画における九〇年代バイオレンスをプロデュースしてきた奥山和由という二つのバイオレンスの合流なのかもしれない。

 

 劇場公開にあたって、本作は製作費を抑えて可能な限り広告宣伝費に資金を回すという特異な戦略が採られている。これが功を奏して、(一部で)話題作となり、一九九六年の第五十回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第十七回ヨコハマ映画祭の新人監督賞および、出演俳優陣について審査員特別賞を受賞している。

 この賞以後室賀厚は映画関係の受賞から離れてしまうが、本作の俳優陣は後の室賀作品にも長らく出演し、北野軍団のようなキャスティングが続くことになる。特に江原修(現在は江原シュウ名義)はこの後に室賀厚の劇映画二作目となる『THE GROUND 地雷撤去隊』で主演に起用され、以後も多くの室賀作品に重要な役で出演している。

 本作に正式な続編はないが、小沢仁志が自ら監督した『SCORE2』がある。本作との繋がりは一切なく、室賀も関与していないのでほぼ小沢のオリジナル作品である。

 

 総括になるが、やっぱり監督やプロデューサーがやりたいことやってると見ている方も気持ちがいいという感想を持ってしまう。下手なことを考えず、脇道に逸れず、やりたいことをやる、そうした熱意とスタイルをひしひしと感じられるのが『SCORE』だろう。初期の北野映画もそうだが、隠しきれない作り手側の興奮であるとか熱意があると嬉しくなってしまう。別に「お行儀のよさ」は映画に求めていないのだ。むしろ、クリエイターはスクリーンの中で思う存分暴れてほしい。それをやっているのが『SCORE』の室賀厚なのだ。この映画にそうした室賀作品の醍醐味が詰め込まれているだろう。

 同時に、これは時代の映画でもあると思う。八〇年代末からのオリジナルビデオの隆盛、松竹における奥山和由の快進撃、経済面から個々の作家性の面でも勢いのあった映画界……そうしたノスタルジアに浸るわけではないが、一つの時代の映画として、その一端を垣間見ることのできる作品として、少し長めに紹介しておきたい作品だ。

 

おわりに

『SCORE』の視聴方法。一応は松竹系でそれなりにヒットした作品なのでDVDが流通しています。そう多くはないけどレンタルビデオショップにも並んでいるかも。今回はDVDを購入しての視聴。

次回は何も考えてません。そろそろ立て続けに見るの辛くなってきたな。

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