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室賀厚作品レビュー企画(第2回):『ザ・ワイルド・ビート 裏切りの鎮魂歌』

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j-makino.hatenablog.com

はじめに

今回は室賀厚監督の『ザ・ワイルド・ビート 裏切りの鎮魂歌』のレビューです。本当は時系列順にやりたいんですけど、『ブローバック』シリーズの後に撮ってる『LONG GOOD-BYE VENUS スウィート・スキャンダル 激射!!ソープランド講座』(1992年)はまだ入手していないので飛ばします。

もうタイトルからし香港ノワールかよ!みたいな感じですが『レザボア・ドッグス』です。室賀作品見てると全人類が『レザボア・ドッグス』見てる前提で世界がつくられてる気がしてくるよ。ジョン・ウーもちゃんとあるよ。

 

ザ・ワイルド・ビート 裏切りの鎮魂歌』

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ザ・ワイルド・ビート 裏切りの鎮魂歌』(1994年)



公開:一九九四年

制作:ジャパンホームビデオ

製作:升水惟雄

脚本:室賀厚 原案:小沢仁志

出演:小沢仁志、ハント敬士、寺島進、山西道広、水上竜士、松山鷹志ほか

 

あらすじ:

 警察に囚われたある男を奪い返すために、ギャングのボス大佐(山西道広)によって、銀行強盗のプロ・バンク(小沢仁志)をはじめとする五人の男が集められた。強奪に成した際の報酬は五十万ドル。強盗を生業としてきた男たちは、互いに不信感を持ちながらも強奪を成功させる。

 しかし、五十万ドルを独り占めしようと、大佐が報酬を持ってやってくるまでの間に、男たちはそれぞれ裏切りを考え始め、そして実行する。次々に銃撃が起こる中、更に男たちの知らぬ別の殺し屋がやってきて男たちに襲い掛かる。しかも奪い返した男ビッグマウス(水上竜士)は、今回の作戦が大佐による策謀であると告白し、男たちは何を信じるべきか混乱に陥っていく。

レビュー:

 ビジュアルもストーリーも基本的にタランティーノの『レザボア・ドッグス』へのオマージュで構成されているので『レザボア・ドッグス』じゃん! と叫んでいいです。でもレザボアのあの黒スーツも、限定的な舞台空間も低予算との戦いの中で生まれたものだし、五百万円で撮られた本作でオマージュするのも理にかなっている気がしないでもない。

 ただしレザボアのように男たちの心理戦をメインにするのではなく、本作のメインはやはりジョン・ウーを参考にしたガンアクションにあって、正直裏切り要素はストーリーを動かす装置でしかない。小沢仁志が殴って蹴って跳んで撃つ! 『ブローバック』シリーズから見せ続けるリアル嗜好のガンエフェクトとアクションの切れ味はここでも発揮される。ただ大きく違うのは、『ブローバック2』では大量の銃器と火薬を使ってバカみたいな火力を画面に映していたのに対して、本作ではせいぜい短機関銃のUZIが強力な火器として登場する程度で、基本的にはベレッタやガバメントといった拳銃でのガンアクションが多い。格闘やナイフといった要素も『ブローバック』シリーズにはあまりなかった要素だ。そう火力を抑えめにしつつも、スタイリッシュなアクションやテンポによってガンアクション演出の切れ味は向上しているように思う。二丁拳銃をはじめとして、大きく横っ飛びしながら銃を撃つアクションや、足元の拳銃を蹴り上げてキャッチするアクションなどは、(結局香港ノワールなんだけど)のちに監督する『SCORE』や『DOG FIGHT』にもほとんどそのまま引き継がれている。

 また、過激なバイオレンス描写も、それまでにはなかったものだ。後半の拷問シーンは、レザボアにおける拷問シーンと同じポジショニングをさせているようだが、静かに暴力を振るうレザボアとは対照的に本作ではスプラッターみたいな暴力描写で思わずびっくりしてしまった。

 スタイリッシュなバイオレンスアクションと、どぎついバイオレンス演出、同じ暴力でもグラデーションのある演出力を本作では見て取ることができ、単純な銃の暴力一辺倒だった前作からの変化と、のちに劇映画やVシネに進出する上でのその下地を感じることができる。

 のちに紹介する室賀監督の代表作『SCORE』は、小沢仁志が当時松竹で活躍していたプロデューサー・奥山和由に本作紹介したところ、奥山が気に入って劇映画化を進めたことで実現した映画だ。基本的な脚本・構成は変わらず、キャストもほとんど変わっていない。その意味で本作は『SCORE』の原型となる作品でもある。

 

おわりに

この前北野武映画オールナイト上映会が新文芸座でやってて「やっぱ北野映画レビューもやりてえよな~」とか考えてたけど、今更北野映画やる意味もない気がするんだよ。やるならピンポイントで『その男、凶暴につき』から『HANA-BI』までだと思う。

次回はたぶん『SCORE』のレビューです。今年もう2、3回見てるんだけどまた見るのか……。

同じ映画何回も見てその回数覚えてるのキモいからみんなはやっちゃダメだよ。